COLUMN|CHOPSTICKS CHANGE THE FUTURE
■ PHOTO:中尾写真事務所 TEXT:藤田えり子
使えば使うほど
CO2マイナスできる「割り箸」?
「このままの生活を続けていては地球が危ない」「地球の温暖化を食い止めるためにCO2の排出をゼロにしよう」なんて呼びかけられても、まだまだ遠い世界のおはなしと他人ごとのように構えている人も多いでしょう。だけど、もう世界は変わり始めています。あなたの身の回りでも、さまざまな取り組みが動き出しています。例えば、いつもごはん屋さんで手にする割り箸。国産の割り箸を使うことで、CO2マイナスに協力できるとしたらどうでしょう。それをかなえるのが[大地といのちのかけ箸プロジェクト]です。
方法はとてもシンプル。飲食店で使用済みの割り箸を回収してオリジナルの炭化装置で炭に変え、畑に埋めて処分する(詳しくは別項で解説します)。しかも炭が畑の土を改良し、美味しい野菜が育つというから、みんなにいいことずくめ。
たった一膳の割り箸で、ほんのちょっとだけあなたの意識が変わるとしたら。小さな一歩だけど、それは確実な第一歩になるのです。
誤解されていたけれど、
割り箸はそもそもエコなのです
「でもちょっと待って。割り箸は森林資源の無駄遣いにはならないの?」確かに以前はそう言われたこともありました。でも、それは大きな誤解。国産の割り箸を使うことは、マイ箸を持ち歩くこととほとんど同じくらいエコであるとデータが証明しています。
もともと割り箸は、建築材として切り出された木材の余りの部分を有効活用したもの。また森林保全の一環として、日当たりをよくするため間引きされた間伐材も無駄なく利用できます。もちろんこれは国産の割り箸に限ったこと。残念ながらコストの面で割安な、輸入割り箸が多く使われているのが現状なのです。
[大地といのちのかけ箸プロジェクト]に参加の飲食店で用いられる[一善はし]は、吉野の杉やヒノキを使用しており、箸の売り上げの一部は林業の支援に役立てられます。箸袋を開くとおみくじになっている楽しい仕掛けで、地球と森に感謝し、みんなが幸せになれますようにとの願いが込められています。
京都議定書から始まったゼロカーボンへの道のり
バイオ炭をカギにした取り組みがスタート
1997年に各国の代表が京都に集結し、気候変動に関する国際会議(COP3)が行われました。そこで初めて参加先進国に対して、温室効果ガスの排出を1990年を基準にして約5%削減するよう採択がされました。この国際条約がいわゆる「京都議定書」です。そののち2015年のCOP21で成立した「パリ協定」では、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるため温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標が掲げられました。我が国でも2020年10月に当時の菅総理が2050年までに温室効果ガス排出をゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すと宣言しています。
私たちの暮らしにも地球温暖化の影響は確実におよんでいます。ここ数年は異常気象が続き、2018年7月の豪雨や台風21号の被害は記憶に新しいところ。京都でも宇治茶やお米など農産物への影響、シカによる食害などが報告されています。桜の開花の早まりや秋の紅葉の遅れを実感するにつれ、日本らしい四季の風情が薄れていくのではと心配する声も聞かれます。
いよいよゼロカーボン対策は待ったなし。[大地といのちのかけ箸プロジェクト]もその一環です。国産の割り箸を使ったこの取り組みのカギとなるのは「バイオ炭」。聞き慣れない言葉ですが、近年世界的に注目され研究が進んでいます。植物は成長の過程でCO2を吸収しますが、燃やせばせっかく取り込んだCO2を放出してしまいます。ですが、特殊な装置を使って炭化すればC(炭素)を固定できます。これがバイオ炭と呼ばれるもの。また、日本では昔からもみ殻を炭にしたくん炭を畑の土壌改良剤として撒いていました。それにならってバイオ炭を使用すれば元気な野菜が育つと考えられ、すでに亀岡市などでは「クルベジ」としてブランド化し、生産・販売が行われています。
飲食店から回収した国産割り箸をバイオ炭化し、京都府下の農家さんで使ってもらう。できた作物はサスティナブル野菜として、再び飲食店で利用してもらう。プロジェクトを通じてそんな循環を作ること。それがプロジェクトの目標です。
CO2の排出削減量を見える化するJ-クレジット制度
制度を活用して生まれる新しいアクションに期待
脱炭素社会へ向けて温室効果ガス排出量の削減が迫られるなか、中小企業や自治体にも社会的責任が求められています。これまでのように経済活動だけに注力するのではなく、環境を守るための目標達成が、なかば義務化されるようになりました。
J-クレジット制度とは、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証し、数値化することで取引できる仕組みです。例えばある企業が省エネ設備を導入し、これまでよりCO2の排出量を抑えられたとします。その削減量を算定して認証されたJ-クレジットを販売でき、新たな資金として活用が可能です。一方、購入する側の企業は、温室効果ガス排出規制値を達成できない場合にその不足分を補うことができます。このような取引を行うことにより、国内での温室効果ガス排出量がプラスマイナスされるという考え方です。省エネルギー分野以外にも、再生エネルギー、森林管理ほかでもJ-クレジットは創出できます。
J-クレジット制度の導入に基づいて温室効果ガスの排出量が数値化され、「見える化」により事業者がアクションを起こしやすくなりました。またJ-クレジットを販売することによる新たな経済効果も生まれています。
2020年9月には「バイオ炭の農地施用」がJ-クレジット制度の対象となりました。条件として350℃以上の無酸素状態で炭にする必要があり、このプロジェクトでは最高温度900℃まで上がるオリジナルの炭化装置を活用しています。京都美山のmumokuteki farmに協力いただいた箸の炭化テストも成功し、実用化に向けて着々と歩み始めています。
大地といのちのかけ箸プロジェクトについて詳しくは >>> https://ichizenhashi.com
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