「グリーンウッドワーク」という言葉をご存知でしょうか。欧米にルーツを持つ木工のことで、いわば生木で楽しむ木工です。作るのはスプーンやボウル、椅子といった身近な実用品。身のまわりにある素材を使って、自分が使うものを自分で作り出す —— これがグリーンウッドワークです。
福畑 慎吾 Shingo Fukuhata
UPIグリーンウッドワーク・インストラクター。
[cafe soto]オーナー。大阪府出身。酪農学園大学卒。
岐阜県立森林文化アカデミーのプロジェクトチームに参加するなど西日本を代表するグリーンウッドワーク指導者
木は買いにいくもの!?
──「木工は乾かした木でするものでは!?と思われた方も多いはずです。しかし、もともと牛や馬で農耕していた時代は、欧米に限らず日本でも木工は生木からしていました。生木はやわらかく人の手での加工がしやすいんです。機械が発明され、電力が普及することで、木工は乾燥させてからが基本になり、生木を手工具で削る文化は廃れてしまいました。それが1980年ごろから欧米を中心に趣味の木工としてグリーンウッドワークが見直され、広がったのです」。
こう話すのはグリーンウッドワークの良さを教え広める福畑慎吾さん。大阪・能勢町にあるご自身のカフェをはじめ全国で活動しています。 福畑さんがグリーンウッドワークに魅せられたのは1冊の本の挿絵がきっかけでした。
「あるグリーンウッドワークの本に、森の中で椅子を作っている写真があったんです。これがしたい!と夢中になりましたね」。
自身の父親の影響もあり、幼い頃から自然に親しんでいた福畑さん。父親といっしょにログハウスを建てたこともあるそうです。
「住まいの能勢は山中なので、周囲に木はいっぱいあるんです。なのに、おかしなもので、ウッドクラフトを始めた学生時代は、市街地のホームセンターまで電車に乗って木を買いに行ってたんですよ。現代人病と言いますか…周囲の環境と暮らしがまったくリンクしていなかったんですね。今は自分のまわりのものが材に見えるようになりました」。
手を動かすと、気持ちが前向きに
福畑さんは大学で酪農を学び、食品メーカーに就職します。
「好きな仕事に就いたつもりだったけれど、どこか不安定な感覚がありました。何かが足りない。木や土に触れたい。そんな気持ちを解消してくれたのが木工だったんです。癒しでした」。木を手に取り、無心になって削り、1本のスプーンにする…。削りながら、もっとなめらかに、もっと握りやすくと手を動かす…。翌朝会社へ向かう電車の中で、次はこんなふうにしてみようと考える…。気がつけば自身でカフェを開き、そこでグリーンウッドワークを広めはじめていました。
今、福畑さんは自身が営む[cafe soto]や、アウトドアライフを提案するショップ「UPI」などでグリーンウッドワークを教えています。
「現代人の暮らしにおいて、自分でものを作ることも自分だけで物事が完結することもほとんどありません。人々は自分でも気づかないうちに自然とのつながりや、ものづくり体験を求めているようです。なぜなら、二足歩行をはじめ、手を自由にした人間にとって自然なことだから」。
福畑さんはこうも言います。
「私がグリーンウッドワークを広めたいのは、実は疲れを癒すためでも、技術を教えるためでもないんですよね。未来を向いて、次はこうしてみようという前向きな気持ちを保つためなんです。自分の手で何かが生み出せるという自信は、人を強く前向きに、そして人生を豊かにしてくれるのではないかと思うんです」。