オーガニックコンセプトを みんなの元へ
農家さんから受け取った野菜を2tトラックに詰め、地域内で流通させる活動を週4日。
このトラックを走らせている「京都オーガニックアクション」とは、主に京都府内のこだわり八百屋と、
オーガニック生産者の集まりです。 「KOA便」と呼ばれている集荷共有プロジェクトがいかにして走り出し、
これからどこへ向かおうとしているのか。今まさに“新たな野菜の経済圏”が始まろうとしている瞬間のお話を伺いました。
始動のエネルギーは「百姓一喜」
「京都オーガニックアクション」の原点は、今から6年前の2017年3月。「百姓一喜」という名の宴会に、京都でオーガニックの生産や流通に関わっている人たちが70人ほど集まった時のことです。
──「オーガニックな農法をめざす新規就農者、それを扱いたい八百屋さん、使いたい料理人さんが増えている中で、有機野菜全般の流通の仕組み自体が全くない。一度みんなで話す機会を持ちたいと思っていたんです。最初はただ美味しいものを囲んで、話すだけのつもりだったのですが、予想を超える70人もの人が集まってくれて」
と話すのは、主催者のひとり[369商店]の鈴木さん。その場でみんなの農業、野菜への熱い想いが溢れ出したそうです。
「オーガニック野菜の業界では、生産者は個々に売り先を探し、小売店や料理人もまた個々に生産者を探しています。流通の仕組みができれば、仲間のためになるのではないか。鈴木さん、伊原さんの他、[坂ノ途中]、[mumokuteki]の廣海ロクローさん、農家らが中心メンバーとなり、ミーティングを重ね、共同でオーガニック野菜を集荷する便を走らせることになりました」
と、鈴木さんは話します。 阪神淡路大震災以降、豊かさの価値観が変わり脱サラ。人と人、人と土とのつながりを大切に有機野菜の移動販売を約25年、店舗販売は約21年続けてこられた [アスカ有機農園]の伊原さんも以前から、共同便の構想をあたためていたそうです。
「2017年前後は宅配の運賃が高騰し、八百屋も農家さんも、ちょっとしんどいよねって話をしていた時期だったんです。同じく発起人のひとりである京丹後の梅本農場さんもお互いの発展を考えたら、仲間を集めて、たくさんの野菜を積めるトラック便を走らせた方が、みんなハッピーじゃないのって言ってくれた。ちょうど百姓一喜のような機会もあって、トラック便を走らせるまでは早かったですね」。
「個」から「仲間」へ
現在の集荷地点としては、南丹、京丹波、綾部、福知山、与謝野町、京丹後、亀岡市を中心に、美山や京北で集荷することも。兵庫県の丹波市、大阪府の能勢町の農家さんの元へも通っています。発足当初は、複数人で同時に作業できるGoogleのスプレッドシートを活用し、生産者の出荷情報と小売店の注文情報を共有。オンラインで複数の生産者と八百屋が直接取引できるようにしたことで、誰かが情報を整理・集約する手間を省き、在庫を抱えるリスクを軽減。需要と供給のバランスをある程度可視化することができました。
「本当なら、農家も八百屋も、手の内がバレバレなので競争意識の強い集まりではうまくいかなかったのではないかと思います。自分達で必要だと思って作ったシステムだから、信頼関係や共存意識が自然と出来上がっていたのかも」。
プロジェクトの規模が大きくなった現在は、株式会社坂ノ途中と「次代の農と食をつくる会」が開発した「farmO(ファーモ)」というシステムを改良し、より便利でスムーズに取引が継続されています。
そしてこれまでにも、年に2回ほどのペースで、八百屋で乗り合わせて農家を訪ねるツアーをしてきたそうです。
「作り手と買い手が直接会って情報交換し、関係性を深めることで、京都のオーガニック市場のような仕組みを目指したいと思っています」と鈴木さん。
もともと自社の売上を大きく伸ばすことに興味が出なかったそうです。しかし仲間を巻き込んでみんなが豊かになることは、なぜか楽しかった。そんな気持を持った仲間が集まって、野菜の新たな経済圏が広がりつつあるようです。
オーガニックという 価値観も届けたい
少しずつ賛同する仲間を増やした「京都オーガニックアクション」は、2022年6月に一般社団法人となり新たなステージへ。
「オーガニックに関わる京都の八百屋は仲間意識が強いです。顔を合わせて、心の中にあること話し合い、違いを認め合うことで“仲間や”という気持ちが醸成されていった気がします」と伊原さん。
「農家も八百屋も、消費者も、オーガニックに対する考え方は人それぞれ、多様なんです。それぞれに実現したいことがあり、協力できることに参加する。協力の度合いが多様であることも、組織を持続するために必要です。これからは、オーガニックとか、地産地消という価値観を広めることにチャレンジしていく時期。メディアでの広報、イベント開催も継続しながら、季節の野菜を食べるという豊かな文化を残し、育てていきたいと思っています」と鈴木さん。
オーガニックの語源とされている「オリジン」。私たちの命の源である食べものや、自然、そして競い合い出す前の人間社会、そしてその頃の経済圏にあった大切な何かを示してくれる言葉かもしれません。