みなさんは藍という植物をご存知でしょうか?大原野の地に小さな種を蒔き、伝統的な栽培方法で育てた藍を染料に、晴れ渡る空のようなジャパンブルーに染めていく、京藍染師の松﨑陸さん。「命の色で命をつつむ」をブランドコンセプトにしたその真意とは
松﨑 陸
京都・大原野出身。大学卒業後に訪れたニューヨークで藍染のジャパンブルーを知り、帰国後に愛媛県「野村シルク博物館」で2年の修業を経験。[染司 よしおか]5代目当主・吉岡幸雄先生に師事。独立して大原野で活動中
口から飲むだけでなく身にまとうことで得られる力
薬を飲むことを“服用”“内服”と言いますよね。江戸時代の文献をひもとくと、薬効のある植物で衣服を染め、心身の健康を維持していたことが記されているとか。皮膚が一番おおきな臓器であるとの見方もあるそうです。
「現代でもブルーは男性の色という印象がありますが、藍染された布には抗菌・防臭効果があると言われるトリプタンスリンという成分が含まれていることが科学的にわかっており、男性の体臭を消していた名残りではないか。ピンクに染まる紅花は血液の流れを促進し体をあたためるので、女性がよく身につけていたのではないかと、僕は推測しています」。性別で色を決めつけていたのではなく、科学の無い大昔に、昔の人はそういった色が持つパワーを感じていたのかもしれません。
ボロボロと土に還る循環の感覚
自然豊かな大原野に工房を構え、今でこそ藍染を専門に行う松﨑さんだが、[染司 よしおか]に弟子入り当初は、なかなか藍に触れる機会を得られなかったそう。藍の染液づくりは特別なものだから。藍は他の染料と違い、発酵させないと色が出てこない。もし発酵が止まると仕事が止まる事に。
「とはいえ、早く藍に触れたくて。自宅の風呂場やベランダで藍を仕込んで学んでいたんです。その際、隣人に迷惑がかからないよう、排水路の流れ道に藍染の手拭いを詰めていたんですが、1年半ほどして取り出すと、まるで土のようにボロボロと崩れ落ちて。植物で染めた植物の繊維はこうして土に還っていく、と改めて体感したんです。微生物の分解力、死してなお意味があるように思える循環の感覚に目覚めた瞬間です。逆に土に還らないものが異質なんだなと思いだしました」。
漠然とした自然への敬意が、土から始まり土へと還るものづくりがしたいという確固たる信念に。さらに「歴史の中に答えがある」という師・吉岡氏からの言葉を支えに、扱う材料も削ぎ落とし、昔へと戻っていった松﨑さん。「短時間で、大量に、低いコストで染められるからといって化学薬品には何かの違和感を感じていて。室町時代に使われていたであろう木灰と蒅を一緒に使ったところ、発色もよく色移りもしない京藍染になりました」。自家栽培する藍の畑には、同じ大原野のそば専門店「そば切り こごろ」さんから預かった出汁がらを肥料として使用。自然と共に生きた古の日本人がしてきたように、自然の循環サイクルに沿って生み出されるジャパンブルーは、纏う人の心に調和をもたらしてくれるはずです。
京藍染色工房
京都市西京区大原野春日町544-26
080-1463-1186
https://matsuzakiriku.com