自然のものから 「つくって、あそぶ」 工芸の原点へ

「英語は苦手だけど、スケボーやサーフボードさえあればどこの国の人ともコミュニケーションとれるんですよ。これは一種の“共通言語” なのかな?」。過去の体験を振り返ってそう語るのは、漆でサーフボードをつくる「URUSHI × ALAIA」プロジェクトを主導する堤淺吉漆店の堤さんだ。ALAIAは、大昔にハワイで使われていたサーフボードのオリジン。このプロジェクトは2017年に京都出身のプロデューサー[SHIN&CO.]の青木さんと共に立ち上げたものだ。

photo:Ryan Jones(SHIN&CO.)

ストリートカルチャーやアウトドアスポーツは共通言語。漆で塗ったサーフボードを持って海外の海岸を歩いていると、波に乗ってなくても会話が生まれるのだそう。「それはなんだ?」「なぜこんなに美しく光ってるんだ?」「どうしてこんなに軽いんだ!?」と矢継ぎ早に質問攻めを食らってしまう。こればっかりは言葉で説明するほかないが「拙い英語で、どんなに時間がかかっても聞いてくれる」。回想する堤さんの目じりは柔らかく、あたたかい笑みが浮かぶ。

とにかく、漆で塗られたサーフボードの存在感は圧倒的。ボード自体の素材は桐の木。海の遊び道具であり、山で産まれたアイテムでもある。自然への愛と、自然を遊び尽くそうという気持ちが重なって生まれた新しい工芸のかたちだ。すべてが天然。それが従来の工芸である。地球からもらったものを利用して、地球で遊ぶ。いま民芸品でもなく、芸術品でもなく、遊びのための工芸品が楽しい。

「キズができたら、また塗って補修する。また使えるし、キズが自分の歴史になる。デニムと同じです」と堤さんは漆の持つ魅力を力説する。スケボーに塗っても格好良いし、日用品にも使える。もちろん水に強く、酸にもアルカリにも耐えうる不思議な地球の産物。使い込まれたヴィンテージものもかっこいい。共に過ごした時間を愛でる事ができる品物なのだ。その時間の長さは生半可なものではない。その気になれば100年単位での付き合いになる。100年後の子孫が、漆のサーフボードに乗ったご先祖の写真を見た時、びっくりするほどかっこいいと思うに違いない。

堤さんの関わる「工藝の森」プロジェクトでは、自らが、賛同してくれる仲間たちと「漆」の植樹を行う。今後は「桐」の植樹予定もあるそう。その木が育ったそのとき、息子や娘にサーフボードを贈ろうというのだ。もちろん自分で乗ってもいい。漆塗りもその気になれば自分でできる。堤さんのお店では、家庭でうつわ程度のものにトライできる「ふきうるしキット」を販売している。息子や娘と一緒に波に乗って遊ぶその日を夢見て過ごす贅沢なスローライフである。

堤淺吉漆店の工房より。

その一方でこれは未来に対する責任でもある。工芸職人は減少傾向。素材となる漆も不足。漆だけではなく、あらゆる工芸の現場で同じことが起こっている。「漆の木や漆産業は現在数を減らしてきています。その右肩下がりの曲線が、地球の悲鳴そのもののように聞こえてきて」と堤さんは吐露する。実際にその直感は間違いではない。便利な代替品が世の中を席捲し、そのままゴミの山を築いている。資源を守り、育て、顧客を創造し続け、産業を維持して技術を継承する土壌を育まないといけない。
しかし、堤さんたちは、悲壮感まじりに嫌々木を植えるのではない。自然の中で遊びながら次の“未来”を土に植えているのである。漆のサプライチェーンの前後をふと考え、行動することで、いままでに無かったカルチャーとして工芸を楽しむ。そうした姿勢こそが工芸の未来を切り開くはずだ。

「漆も桐も15年で育ちます。50年後や100年後のことは正直、想像もつかないけど、15年ってあっという間ですよ。ぎりぎり見当がつく。つまりすぐそこの未来をどう過ごしたいかをイメージしながら――。強くて美しい山。そこで遊ぶ子どもたち。かっこよくて地球にやさしいサーフボードと仲間たち」「良いものだと気づいてもらえれば、あとは自然に仲間が増える。うんと賢い人が、ビジネスを起こしてくれたりなんかして……」と未来を見て笑う堤さん。クールで楽しい。そういうものがいつの時代も残ってきた。そして国境をも越える。現在、このプロジェクトには[サーフライダーファウンデーション]など国際的なNGOをはじめ、多くの共感者が現れている。いつしか「工芸」や「漆」が共通言語になる日が来るかもしれない。

堤淺吉漆店 専務取締役 堤 卓也

四代目。1978年、京都生まれ。北海道大学卒業後、2004年より、日本でも数少ない漆の精製業者である家業に従事。文化財修復や伝統工芸などへ、現場のニーズに合わせた漆を提供する一方で、1万年前から存在しつつも、まだ全てが解明されていない漆の未知なる可能性を追求するプロジェクトを多数手がける。2019年6月からは、[一般社団法人パースペクティブ]を設立。共同代表松山さんと共に、漆を通じて、工芸の未来を考える団体を設立。漆の木の植栽の輪を広げる活動を開始する。

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